2014.02.07

東京は銀座にあるggg(ギンザ・グラフィック・ギャラリー)で、今、展覧会を開催中です。「指を置く」展 と言います。

絵画や工芸の展覧会では、作品にお手を触れないでください、というのが通常ですが、この「指を置く」展は、すべての作品にあなたの指で触ってもらいます。身体とメディアの研究者である齋藤達也さんとの二人展です。齋藤達也さんは、2004年から5年間、東京芸大の私の研究室に所属し、博士号を取得しました。私が育てた博士第一号となります。

展示されている作品群は基本的に紙に印刷された図版です。何故、紙なのか、なぜそこに指を置かなくてはならないのか、ということに関しては、会場の入り口に私が書いた主旨文をここに載せますので、それを読んでいただくのが一番かと思います。

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私たちにとっての指の存在

お箸を持ったり、スイッチを押したり、何かを指差したり、誰かにサインを送ったり、毎日、指はいろんな働きを見せてくれます。しかし、その機能のあまりの多様さとその存在の近さ故か、私たちは「私たちにとって指とは何か」なんてあらためて考えません。

この展覧会では、
そもそも人間にとって「手」の出現がどういう意味であったのか、
さらには「指」の存在が人間の活動、特に認知活動にどういう影響を与えているのか、
そして、私たちを取り巻くメディアというものは、私たちとどう関係しているのか、
そのメディアの中に、自分の「指」が登場すると、どういうことが起きるのか、
ということを、たくさんのグラフィック(図版)を使い、解明していきます。

この展覧会は、すべての作品に「指を置いて」鑑賞してもらいます。そして、その所作と紙に描かれたグラフィックにより、あなたの内部に立ち上がる独特の表象(=気持ち)を静かに鑑賞してほしいのです。

通常の美術の展覧会では、作品の前面に向かうのは、あなたの眼です、手や指は関与してきません、むしろ後ろ手をして鑑賞している姿もよく見かけます。映画館などは真っ暗にし、あなたの存在さえもキャンセル(ないものと)してスクリーンだけに向かわせます。読書時も自分の手をないものとして読んでいます。このように、メディア上のコンテンツに向かう時、私たちは自分をないものとすると没入感が生じやすいのです。しかし、この展覧会では、自分の存在を敢えて、コンテンツに参加させます。その時、果たして自分の存在は、メディアの定義でもある没入感を阻害するのでしょうか。それとも、表現の新しい鉱脈となるのでしょうか。

私たちは、この4年間に渉って、メディア(紙)に描かれた図版(グラフィック)を作り、そこに指を置き続けてきました。その図版の数は、数百にも及びます。そして、独特な表象を生んだ図版を選び出し、分類を試みました。ここに、代表的な図版群とその考察を発表します。

紙が蔡倫(さいりん)によって発明されて二千年、活版印刷術がグーテンべルクによって発明されて六百年。そんな長い歴史の中、指とグラフィックの関係性から生まれる問題はなぜか気付かれず、放置されてきました。認知科学が発展し、身体とメディアとの関係がより明らかになっている今だからこそ、また脳機能測定により内観が客観視できる今だからこそ、この指と紙という、人間にとって一番基本的なメディアと身体の関係を探る意識と意義が生まれたのです。

ひとつひとつの作品にあなたの指を置き、自分の内に立ち上がる表象を静かに鑑賞し、人間、メディア、そして表現について思いを巡らせていただけたら、幸いです。

2014年2月 佐藤雅彦 + 齋藤達也
「指を置く」No.01 二重交叉

以下、鑑賞に関して、私から、いくつかお伝えしたいことがありますので、箇条書きいたします。

1.指を拭くための机

会場に入るとすぐに、細長いきれいな机があります。それは「指を拭くための机」なのです。とても力を入れて設計しました。みなさん、そこで指を拭いて、清潔にして、作品を鑑賞してください。

2.かわいい引き出し

一階には、「作品に指を置くための机」が並んでいます。その中の多くは、かわいい引き出しを付けました。その引き出しを引っぱると何が出てくるか、会場で試してみてください。地下には、大きな机があります。これにも、小さな引き出しが付いています。これらの什器はすべて指を置いて鑑賞するために作りました。

3.手荷物は少なめに

この展覧会の作品はすべて、来ていただいた方に指を置いて鑑賞してもらうものです。なので、可能なら手荷物を少なくして、来ていただきたいと思います。もし、手荷物が多く鑑賞しにくかったら、クロークに預けてください。決して許容量が大きいとは言えないクロークですが、空いていれば預けることが可能です。

4.早い週の早い時間帯が狙い目

かなりの混雑が予想されます。会期は、2月28日(金)までですが、最終週(24〜28日)は、かなり混み合い、鑑賞がしにくくなります。なるべく6〜20日くらいまでに来ていただくと展覧会がより楽しめるのではないかと思います。無理でなければ、午前中、午後早くとか来ていただくといいかと思います。早めに来て、出たあと、近くのよし田(蕎麦屋)や維新號(中華)などで遅めの昼食もいいと思います。ダロワイヨでケーキもいいですね。

5.実は、面白い論考ボード

会場には、一階に5枚、地下に4枚、以下の表題で論考、考察が書かれたボードがあります。

【一階展示室】
論考① 手が生み出した自分という存在
論考② 自分を必要としないメディアの存在
論考③ 自分事(じぶんごと)になるということ
論考④ 私たちにとって、『指』というものはどういうものか

【地下一階展示室】
考察① 脳内の編集作業
考察② 道具の作用点への関心
考察③ 呪術性の生起
考察④ 指を置く事で促進される概念理解

どれも、齋藤さんと一緒に一生懸命書きました。決して、難しい内容ではなく、平易な文章ですが、内容的にとても面白く、示唆に富んでいると思いますので、作品鑑賞の後に、読んでいただくと、とても幸いです。

6.MMMで、著作、置いてます

gggの隣にあるMMMで私の著作物が、たくさん置かれています。時間が許せば、そちらも見てください。

7.日曜日はやってません。

このギャラリーは日曜日お休みです。祝日もお休みです。せっかく行って、ぎゃーやすみーとならないように、一言伝えておきます。

会場のアートディレクターは石川将也(ユーフラテス所属)です。会場のロゴ関連、パネル関連はもちろん、ほとんどの作品の図版も作画、デザインしています。今回はものすごい量の作品数ですが、緊張感を絶やさず制作してくれて、かなり高い質になっています。書籍も、今年の4月あるいは5月に出版予定ですが、その装幀もやっています。

もうひとつ、見所が、実験的なコーナーの study room (研究の部屋)です。そもそも、「指を置く」展は、私と齋藤さんにとって、研究成果発表の意味合いが大きいのですが、この study room では、指を置くのより実験的なところを見せています。紙メディアではない指を置くも展示されていますので、お楽しみください。このコーナーは、大島遼に制作してもらいました。石川将也も大島遼も慶応大学の佐藤研究室の卒業生です。

たくさん書きましたので、読んでいただいた方は、もう行った気になったかもしれません。でも、実際に来ていただいて実際に指を置いてほしいのです。そこには、あなたが体験したことのない、あなた自身が生む表象(=気持ち)が待っているはずです。

佐藤雅彦

「指を置く」展 佐藤雅彦+齋藤達也

場所:ギンザ・グラフィック・ギャラリー
会期:2014年02月06日(木)〜2014年02月28日(金)
開館時間:11:00a.m.- 7:00p.m. (土曜日は6:00p.m.まで)
休館日:日曜・祝日  入場無料

アートディレクター:石川将也
実験装置制作:大島遼

ggg ホームページ:http://www.dnp.co.jp/gallery/ggg/
ddd ホームページ:http://www.dnp.co.jp/gallery/ddd/

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